こんにちは! テトルの本村拓人です!

今号はNPOコトバノアトリエ代表、山本繁氏のインタビュー(前編)をお送りいたします。

短期間にもかかわらず、次々に事業を拡大させる山本氏。

周到な準備と計画が事業発展の大きな要素となっている。ニート問題を解決する事が活動の本義であるが、それよりも、若者の夢や目標を決してこわしたくないというその『想い』が山本氏の行動のエンジンとなっているように感じた。

その半面、合理性と柔軟性は多くの人を巻き込みながら事業を発展させていく社会起業家にとって、非常に重要な資質であることも山本氏から改めて学んだ。

トキワ荘プロジェクトの事業内容を教えてください。

トキワ荘プロジェクトは、東京の高い家賃が若者たちから可能性を奪っているのではないか?という疑問点をベースに始めた事業です。要するに、低家賃の住居を若者たちに提供することで彼らが夢や目標を実現するのをサポートします。せっかく夢とか目標を持って上京したのにもかかわらず、多くの人がバイトばっかりしなければならない生活に陥るわけです。

どうしても、漫画家として熟練する為にはある程度の時間がかかります。僕はこの現象を「非常にもったいないな」と感じたので、この若者の夢や希望を阻害する根本的な問題をなんとか解決したいなと思い、活動を始めました。また、『トキワ荘』という名前からも分かるとおり、漫画家を支援するプロジェクトに現在は焦点を絞っています。

僕が彼らにお金をあげられれば解決できるのかもしれませんが、現実的ではないですよね?極端な話、文化庁が彼らに対して一定の補助金を与えればそれはそれなりに合理的な解決策であります。でもそれも極論的な話しで、現実的ではない。そこで、「どうすれば、彼らが抱える問題を解決できるのか?」ということを考え始め、夢を追う若者に安い家賃で借りられる住まいを提供する事業を進めていきました。

物件を借りて、部屋割りで貸していくという至ってシンプルな方法です。この事業の肝は、物件をいかに安く買い叩けるかということです。多くの方は物件が安くなるとはそもそも思わないのですが、実際はそんなことはありません。知識と情報と交渉術と、安くならなければ別をあたるという「割り切り」があれば、ある程度安くなります。

4畳半で4万5千円ですよね?

そうですね。それに加えて、水道、光熱費、通信料などを含めて4万5千円で提供しています。「あんまり安くないですよね」と言われることも多々あるんですが、漫画家志望の人たちって家にいる時間が非常に長かったりするんですね。だから、電気代とかって本当に高いんです。また、都内で2万円ぐらいの物件もあるにはあるんですが、お風呂がついていなかったりするわけです。そうすると銭湯に行かなくてはなりません。

現在の銭湯は都内だと1回420円ですから、毎日お風呂に入ったとすると1万2千円くらいは一ヶ月に掛かるわけです。そう考えると全て込み込みで4万5千円は相当安いはずです。実質の家賃は2万円程度です。

家賃を下げる大きなメリットは先ほどもお伝えしましたが、週5日バイトをしなければならなかった人が週2〜3日くらいにバイトの時間を抑えられるようになることです。できれば週2日が理想的です。

たしかに、その分漫画を描く時間を創出することができますね?

そうですね。週5日間漫画やイラストを描く時間に割り当てられれば、次第にそこからの収入も増えてきます。まるまる漫画やイラストの制作に時間を当てる事ができてくると、制作物で最終的には生活できるようになります。これが僕の理想の形です。

トキワ荘の仕組みって、もともとはイギリスで言う『フラット』と呼ばれている仕組みなんですね。一つの家や部屋を何人かで借りて一緒に住むといった滞在方法です。ただ、この仕組みを日本の不動産システムでやるとなると、なかなかできなかったりするんです。

同時に、トキワ荘というのはコミュニティなんです。漫画家を目指す方々がお互いに切磋琢磨しあうわけなんですね。例えば、映画とかだと現場が一緒だとすごく仲良くなったリして、お互いに刺激しあっているわけです。ただ、漫画家ってすごく孤立しているんです。漫画だけじゃなくて、そういう孤立しがちな仕事に就きたい子たちのコミュニティを作っていくことってすごく価値があると感じています。

現在東京都内に何棟のトキワ荘があるんでしょうか?

現在、都内に6件あります。全部一軒家です。入居者数は定員で33名です。まだ全てうまっているわけではありませんけどね。入居者の中で現在デビューしているのは3名です。ただ、その全員がトキワ荘に住んでデビューしたわけではなくて、1名だけがこのプロジェクトからデビューを果たしました。デビューしている子たちが描いているのが、『ヤングマガジン』や『コミックガンガン』で連載されています。現在版権を獲得して、単行本の制作の話も進めています。あとは皆デビューを目指している卵といった具合ですね。

デビューしている方々は漫画の連載から生計を立てられるまでになりましたか?

まだですね。ただ、これから徐々に漫画を描く仕事にシフトしていけるとは思います。

なるほど、この1年で6棟も住まいを提供しているということは驚きです。資金繰りはどうされているんですか?

はじめは自前です。僕の祖母の家なんですが、そこを使わせてもらってサービスを始めました。2軒目からは『Seed Cap Japan』という社会起業家育成支援プログラムというのがありまして、そこから200万円出してもらって4軒まで増やしました。このプロジェクトは多少利益を出せる事業モデルにしていますから、そこから出た利益と、他の事業で得た利益を基に物件を借りる為に再投資しています。

山本さんが全て物件探しを担当されているんですか?

僕とスタッフの丸山とで行っています。良い物件があったら、丸山が視察しに行き、そこから徐々に値引き交渉を始めます。

この事業の本質は「いかに安い物件を見つけるか」ということですよね?

そうかもしれませんね。実は僕は大学生の時に不動産投資をする方々に対して不動産投資の情報サイトを運営していました。要するにベンチャー企業をとある不動産会社の社長さんの出資で経営していました。その時に僕自身かなり物件めぐりをしていましたので、物件を見る目はそれなりに肥えていたと思います。また、出資元の不動産会社の社長さんとかなり話し込んでいましたから、業界自体の手の内がある程度はわかります。この経験は確実にこの事業にとって重要な成功要素となっています。

今年(2007)新たにトキワ荘を都内に提供される予定はありますか?

今年一杯は「これは絶対おさえるしかない」という魅力的な物件が見つからない限り、その予定はありません。

経営者の側面から、当初予定していた事業計画との誤差はありますか?

トキワ荘プロジェクトに関して言うと、増える軒数は計画通りです。来年の末までに入居者数が100人になっている予定です。また、漫画以外の人も支援することも考えています。例えば、アニメーターとかって月給10万円くらいで雇われていたりします。しかも、労働時間は一日18時間とか。だから、僕は他の分野に夢をもって取り組んでいる方々に対しても同様のサービスを提供したいと考えています。ただ、現状はまだ他の分野のサービスを始めるための準備が整っていないので、これから詰めていく計画です。

その為にも年明け(2008年)には一人スタッフを増やそうと計画しています。新しいスタッフが加入することで、丸山(専属スタッフ)の手も空いてくるので次の分野に参入するための準備に取り掛かれると思います。もうすこし述べると、漫画家とそれ以外の分野とに分別していこうと考えています。

今後のトキワ荘プロジェクトのビジョンとは?

他の分野のプロを目指す子たちを支援するのは勿論ですが、しっかりと準備金を蓄えてビルを一棟まるまる借りたいと思っています。月の賃料50万くらいのところに30人は住めるような環境を提供したいです。また、分野に関しては現時点で1分野のところを5分野までに拡張し、30人くらいの人を一つの場所に集めるというのは今後の大まかなビジョンです。現在計画しているのは7年後に年間1000人の若者たちの挑戦を支援できる体制を築くことです。

僕たちがやっている事は至ってシンプルで、いかに家賃を下げるかという事と、いかにニーズに対して供給の最適化をするかという事。最大化ではないところが重要です。そして、いかにプロとしてデビューしやすい環境を提供できるかです。要するに、ソフト、ハード、そして規模のバランスを絶妙にとりながら進めていこうということです。7年後というのは計画であって、もっと早い場合も、遅い場合もあります。

ビジョンに対する数値的計画がしっかりしていますね。今度はコトバノアトリエのもう一つの柱事業である『オールニートニッポン』についてお聞かせください。

ニートによるニートのためのインターネットラジオ「オールニートニッポン」を昨年10月より開始しました。丁度1年を経過したところです。このインターネットラジオ番組は、近年の若者が抱える「労働問題」や「ひきこもり」といった不安や悩みを、同年代でニートでもあるスタッフたちと語り合い、支えあっていくようなコンテンツ事業になります。 

また、現在『アップリンクファクトリー』さんと協力して、月に一度公開ラジオ放送なるイベントを実施しています。お客さんも毎回70名から80名くらいお越しいただいています。ただ、それでも月1恒例のこのイベントは赤字です。この事業はメディア事業ですが、メディアで利益を出すのではなく、この企画を通して培ったノウハウやコンテンツ制作の経験を積んだ上で、企画・編集・制作プロダクションへとシフトさせ、またそこから収益をあげていくといったモデルです。

オールニートニッポンをニートの子たちと一緒に運営していることで、メディアに取り上げられることも非常に多いので、様々なお仕事のお話を企業さんなどから頂いたりしています。ですので、メディアで儲けようというのではなく、自社コンテンツの制作を通じて人を育てることや、社会にとって意義のある活動をまず始め、その活動の延長線上に様々な仕事が回ってくるという構造を作ることです。

オールニートニッポンからの事業収入はどれくらいですか?

今年で約600万円くらいですね。それほど事業規模を大きくしようとは思っていませんが、現在は1年目ということもあり、規模が小さいので拡張する計画です。公開放送は確実に赤字ですが、やはり公開ラジオ放送にわざわざ足を運んできてくださっているお客様の存在は本当にうれしいですね。

来場者の半分くらいはニートの子たちだったり、家に引きこもっている人たち、また、リストカットをしちゃう子たちなんかも来てくれます。公開放送の醍醐味として、イベント終了後、参加者との交流会がありますので、そういった社会から切り捨てられがちな若者たちの『横のつながり』ができる事は本当に意義のあることだと思います。

また、事業としてオールニートニッポンを考えると、完全にコンテンツ事業ではありますが、それほど収益が高い構造にはなっていません。そこで、企画・制作プロダクションとしてこれから本格的にこの事業の舵取りをしていきます。

ちなみに、インターネットラジオ(ポッドキャスト)の登録者数はどれくらいですか?

約3000人くらいですね。今年の7月からですからちょっと少ないとは思っています。はじめから毎月コンスタントにやっていたら1万人は超えていたでしょうね。ただ、たとえ登録者数が1万人になってもそんなに儲かりはしません。ただ、軸としてはまずはお金にならなくても社会的に意味があるし、毎週楽しみに聞いてくれている人たちがいますので、継続して情報を提供し続ける事はなによりも重要です。

でも、多くの場合は必要でやっていくんですが、やはりお金がないと続かないということに陥りがちです。だからこそ、こういう社会的にとてもニーズのある事業を進めながらも、他のエリアでお金になる仕事をと継続させるという強い意志は持ち続けています。

そう考えると、ポッドキャストの存在意義っていうのは、オールニートニッポンという一つの企画・編集・制作プロダクションの広報ツールになっているという認識です。ラジオを通じて、様々なテーマ性のある問題意識を社会に働きかけていったり、また、それを手作りで作っていくという事は仕掛け方とかもいろいろあるわけです。

そういうのがノウハウとして蓄積し、また、結果として、しっかりとユーザーの方々に見せられているということはやはり重要です。お金も潤沢にあるわけではありませんから、続けるという姿勢を貫くことで、ノウハウや僕たちにしかできないコア・コンピタンスが徐々に見つかってきます。そうすることで、色々なところからお仕事の話だったりがもらえているんだと思います。

本当に生きるのが辛いしたいという人たちを支援している、または、しようとしている団体って多くありますが、広報の部分があまりうまくいかなかったり、プロデュースの部分で手こずってしまったり、また、個人に1対1で支援することは非常に大切なんですが、それと、事業を作っていくというのは違います。僕たちの場合は、事業を展開・運営する中でノウハウが蓄積されていくということは強みになっています。

ニートの若者たちを支援する事や、薬物依存の子たちを守るNPO団体、あるいは専門学校や大学などから私たちが求められる組織になり、結果として「こうしたほうが中退する学生が減りますよ」といったアドバイスができるようになれば、ニートになる若者って減っていくと思います。

なるほど、ただ、私が一番興味をもったのが、この事業を支えるスタッフさんって山本さん以外全員元ニートの方々なんですよね?

そうなんです(笑)。僕がいろんな仕事を取ってきて、彼らニートという烙印を押された子たちがその仕事をまわしていくんですね。このプロセスの中で確実に成長しています。スタッフが現在8人から10人ほどいますので、全員がこの仕事で食べていけるようになったら生きる上での自信にもなります。

事業規模としては非常に小さいんですが、スタッフになりたいという子たちはいます。プロセスとして、ボランティアで自主コンテンツをつくり、そこから経験を積みアルバイトになって、最終的には社員になります。スタートがニートの子たちでも、3年くらい正規職員のキャリアが持てば企業に転職しやすくなるんですよ。だから、オールニートニッポンはこれから会社化します。なぜNPO法人化でないかと言えば、NPOの職員より営利企業の職員の方が現状ではやっぱり転職しやすかったりするんですね。

NPOのスタッフって本当に転職しにくいわけです。だから、株式か合同会社かまだ分かりませんが、会社化して雇用契約を結んで、3年くらいスタッフとして働いて、転職していくという流れになってくると、もともとニートだった若者をマスコミや情報発信に関わる業界に送り出していけるという、社会におけるパイプの役を担えます。この事業の中で、世の中を良くしていけるようなプロモーション活動を、人を育てるモデルも構築しながら展開できれば、社会的にもビジネス的にも大きな意義があります。

おもしろいことに、やはりニート問題や生きるのが辛い子たちへのサービスなどを行っている団体や企業にとって、僕たちの事業ってすごく魅力があるみたいなんですね。僕はこれを『ニートマーケティング』と呼んでいます。例えばニートについての情報やデータ、そして、ニート問題を解決する様々なノウハウが蓄積されているという意味で、専門性を持っていると言えるになってきました。このドメインをぶらさない限り、この優位性は常に持ち続けることができると思います。

具体的にどんなお仕事をやっているんですか?

ポッドキャスティングや動画などの業務に対してのニーズはかなり高いですね。また、最近は某大手広告代理店から依頼された企画・編集の仕事なんかもあります。また、地方で若者が東京などの都市部に出てしまうために地方が現在どんどん過疎化に悩まされています。地方に住んでもらうためのキャンペーンやイベントをプロデュースするなどのお仕事のお話もあります。

実は先程、とある財団法人さんからニートの女の子、例えば、薬物依存をしてたり、リストカットしていたりする女の子たちのためのコミュニティを作りたいので相談にのってほしい、という問い合わせがありました。そこで来週打ち合わせをすることになりました。こういうことが、月に何度かあります。

そういった子どもたちの問題に深く関わっている親や団体からそういった依頼が自然に来るようになっているわけですね?

そうですね。さまざまな困難を抱えている子たちを支援している、支援したいという団体等からの依頼・問い合わせは多いです。勿論、自分たちから営業もしています。生きることが辛いと感じている子たちの受け入れ先って沢山あるんですね。通信制の大学とか専門学校とか。例えば、対人関係が苦手で通信制の学校に通ってたりするわけです。ただ、卒業できる生徒って全体からすると非常に少ないわけです。

でも、どうやったら継続して、授業に出て卒業できるかみたいなことってサポートできると思うんですね。専門学校も中退をしてしまう子たちは多いですよね。専門学校を中退して、ふらふらしていると限りなくニートになる可能性って高くなるわけですよね。また、専門学校を中退しそうな子たちって性質的にはすごくニートに近いかもしれない。どうやったら学生たちが中退しないのか?等の相談に乗ったりもしています。

分類すると、周囲とのコミュニケーションが上手くいかなかったり、学生生活の間で通学の目的を喪失したりといった、さまざまなパターンに分けられます。僕が考えているのはそのパターンに沿ったそれぞれの解決策を提供したり、また、学校の中に目的を見つけてもっと学校生活を楽しくしたり、人間関係が築けないのであれば、学校の中に対人関係を改善させる仕掛けを作っていくなどのいろんな提案ができるわけです。またその仕事に部分的にでも元ニートの若者たちが関わることで、仕事の仕方やスキルを身に付けていっています。若者の気持ちは若者が一番よく分かるので、飲み込みも早いですよね。

 

 

山本氏のインタビュー(前編)は以上になります。

次号は山本氏のインタビュー後編です。ニート問題は資本主義の仕組みの中で社会が生み出した課題。「ニートをフリーターにすればこの問題は解決する」と山本氏は語る。次号でこの考えの真相に迫る。

みなさま、お見逃しなく!!


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Profile
Interviewie photo

NPOコトバノアトリエ代表理事

山本繁 yamamoto shigeru

1978年5月
東京都板橋区生まれ
2002年3月
慶応大学環境情報学部(SFC)卒業
2005年3月
神奈川ボランタリー活動推進基金21「ボランタリー活動奨励賞」受賞
2006年2月
Work-Life Innovators'プロジェクトに参加
2006年4月
ニート・不登校・ひきこもりNEXT VISION FORUMを設立
2006年6月
神保町小説アカデミーを開校
2006年8月
トキワ荘プロジェクトを開始
2006年9月
NEC社会起業塾2006年メンバー
2006年10月
インターネットラジオ「オールニートニッポン」の放送を開始
2007年
社会起業家ビジネスコンテストSTYLE4th「優秀賞」受賞

詳しくは→ 

【トキワ荘プロジェクト】http://tokiwasou.dreamblog.jp/

【オールニートニッポン】http://www.allneetnippon.jp/

【神保町小説アカデミー】http://www.kotolier.org/j-academy/

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